四回戦

ゲスト対談者は文化放送アナウンサーの斉藤一美さんです。


三回へ


4回表
 あ、どうもすいません。唇のブルブルですよね。あれは最近、全然やってません。
言われるまで自分がやってたことすら忘れてました。でも、嘘じゃないんですよ。朝ワイドの最後の1年くらいの頃、あみ出したんです。

 僕は基本的に朝まで原稿を書いて、徹夜か仮眠とる程度かで、文化放送入りしてたんです。徹夜のときは逆にテンション上がったりして自分でも面白かったんだけど、困るのは仮眠とった状態。頭がなかなか起きないんだ。番組前にストレッチしてみたり、色々やっても起きない。ま、気合いで何とかするしかない。

 頭は気合いです。最悪、30分くらい番組やってれば起きて来る。問題なのは唇と舌でした。これがなかなか起きてくれない。僕はアナウンサー教育を受けたプロのしゃべり手じゃないから、ある程度、カツゼツが悪かったり、言いよどんだりしても許してもらうってエクスキューズはあります。だけど、自分で気分が悪い。頭ではイメージしてるのに運動神経が起きてくれない。

 そのときに唇のブルブルを考案したんです。まぁ、これ、口のまわりの筋肉をほぐしてるんだね。やってみてけっこう効果があって、それで斉藤さんに会ったとき、嬉しくて言っちゃったんだと思う。効果があるのに何故、今、全然やってないかというと、あれほどの集中力でラジオをやる機会が僕にはもうないからです。

 朝ワイドの4年間は番組の中身についても、小ネタについても、水谷アナとのコンビネーションについても、ほぼ24時間体制で意をこらす感じで、全投入してたんですよ。毎日、「あ、これを番組で言おう、こんな風に言えば水谷、こう返してくるなぁ」みたいにイメージしながら暮らしていた。しゃべりもテンポやトーン、タイミングに神経を行き渡らせてた。

 あれは今の生活では無理です。今はライターの生理に戻っている。朝ワイド終わって半年くらいした頃、文化放送の人に「そろそろ、コンディションの維持が無理です、もう戻っちゃいますよ」と言ってみたんだけど、「いや、それがえのきどさんじゃないですか」って反応だった。僕はラジオのパーソナリティーさんが出来なくなるとか、そういうのより、せっかくいっぺん作り上げた状態を失くしてしまうのが残念だったんですよ。ほら、ピッチャーが指先でボールを切るとかいうのがあるでしょう。あの時期はしゃべりの身体感覚が、そういう指先みたいに自分でハアクできた。

 まぁ、僕はそういうこと多いですね。いっぺん作った状態を失うに任せるというか。逆に言えばそれが新しいことへ自分をチャレンジさせるところにもつながるんだけど。たぶんこのHPに居ついてる人も、僕のこと何だかよくわかんないと思うんですよ。ラジオで好きになったのにラジオ番組持たない。野球で好きになったのにサッカーを書く。サッカーで好きになったのにアイスホッケーに身を入れる。そもそもそういう以前にサブカルで好きになったのにラジオとかスポーツとか、勝手なことばかりする。

 まぁ、僕は修業のつもりです。何に向かっての修業かわからないけど、何かには向かってるらしい。本籍はライターで、現住所はコロコロ変わる。コロコロ変わる度に総合力は身についていく。唇のブルブルは懐かしいです。つまり、そういう修業をしてた時代の身体的記憶ですよ。



  えのきどいちろう




4回裏
 ご回答、ありがとうございました。「ライターの生理」に反した4年間があるからこそ今がある・・・というえのきどファンの方はたくさんいらっしゃいますよね。僕もその一人です。よくぞ文化放送で喋って下さいました!

結局、僕の方がより長く“唇のプププププ”を続けていた事実に驚きながらも、家元(まさかオリジナル運動とは!)が“唇のブルブル”とおっしゃっている以上、これからは後者の呼び方に統一させていただきます。

夜ワイドを担当している頃、僕の生活は自堕落で、ブクブクと太ってしまったこともありました。そんな時、家内から二重アゴ解消の秘策として『口を目いっぱい横に開いた状態で、ア・イ・ウ・エ・オ・カ・キ・ク・ケ・コ・・・と声を出していくと良いらしいわよ』とアドバイスをもらったのです。これを毎日続けていくうちにえのきどさん発の“唇のブルブル”にも出会い「合わせ技」として採り入れると、飛躍的に舌が回り始めました。ハイテンポに言葉を紡ぐのが楽チンなので、今はちょっと喋るだけで周りの空気を実況のムードへ持っていけるようになったんですよ。こうして振り返ってみると、現在の喋りの型を作ることができたのは、やはりえのきどさんのおかげです。感謝しております。

さて『“唇のブルブル”は寝不足で喋らなければいけない時に効く』とメールをいただいてから、即、本当であることが証明されました。9/8(土)の実況・巨人×阪神20回戦(2−1、タイガース9連勝でついに首位!)です。前夜はもちろん、当日もブルブルと唇を小刻みに震わせましたので、呆れるほどペラペラ喋れました。コンビを組んだ辛口解説・豊田泰光さんが「今年最高の試合」と唸った伝統の一戦は、鳥谷のプレーボール初球先頭打者アーチで始まったのはご存知ですよね?内野ゴロの山を築く安藤は巨人打線を5回パーフェクトに抑える中、イ・スンヨプがチーム初安打の特大同点弾を放ち1−1。しかし、好投・久保は葛城育郎に外へのフォークをすくわれて勝ち越しホームランを浴び2−1。JFKの“J”不在の中、阪神が何とかしのいで逃げ切りました。赤星はウイニングボールをグラブに収めた瞬間、その場に尻もちをつくようにへたれ込んだのが全てを物語っています。息もつけない投手戦だったのです。

実を言いますと、僕の理想は“平日の帯ワイド”しかも【意気揚々】のような個性豊かな番組を喋ることだったりします。

でも、超満員の東京ドームで予測不可能な首位攻防・1点差ゲームを3日連続で目の当たりにした今は、野球中継のさらなる奥の部分を追求する方が大切なことではなかろうか、と考えるようになりました。そうしないと、野球の神様のバチがあたりそうな気がするんです。あの壮絶な3連戦を現場で見てしまったからには、タダではすまんぞ!みたいな。

あと、阪神タイガース・関本健太郎が素晴らしかったです。186cm・83kgの体格でセカンドの動きを俊敏にこなす姿に惹かれました。特に忘れられないのが土曜日の試合。一・二塁間に飛んだ鋭いゴロをファースト・葛城がサッ!と左に動いて捌いた後ろで、関本は右に横っ飛び!ボール不在のダイビングキャッチです。その姿はあまりにユーモラスだったので豊田さんと僕は放送席で大笑いしながらも「キチンと打球のラインに入っている」と二人して感心しました。

そして、翌日。同じような一・二塁間のゴロをファースト・葛城が左にダイビング!捕れない!関本は同時に右に横っ飛び!捕った!すぐに立ち上がって一塁送球!ベースカバーに走りこむピッチャー・ダーウィンが捕った、アウト!しかも葛城は打球をちょっと弾いていたのに、関本はちゃんと反応できているのです。昨日の今日だったのでかなり興奮しました。パなら金子誠、木浩之、阿部真宏にTSUYOSHI。セは宮本慎也と井端&荒木、そして、関本。球際に強い内野手は見ていて楽しいですよね。

虎党の応援も同様です。さすがにあの真っ只中に入ることは想像できませんが、遠くから眺めている分にはちょっとウキウキしてきます。フツー、午後10時を過ぎそうな時って9時57〜58分くらいで鳴り物応援を止めるものですが、日曜の阪神応援団はトランペットを9時59分54秒まで吹いていました。一見、野放図に騒いでいるようですが、実は117で時計を合わせて試合に臨んでいるんですかね。ギリギリまで<応援団の命>は手放さない!という執念を感じましたよ。

そんなこんなで野球の持つ力って凄いなぁ・・と素直に思えた先週末でした。このGT3連戦のことは、一生忘れないでしょう。




  斉藤一美

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